日本最古・最大の私学薬学部を有する東京薬科大学(以下、本学)は、設立から約130年間の長きにわたり、時代の要請に対応した知識と技能を有する薬剤師を輩出してきた。一方、増大する医療費に歯止めをかけようと、今年度、薬事法が改正され、感冒薬や胃腸薬など第二・第三類医薬品が、登録販売者を活用すればスーパー・コンビニなどで24時間販売できるようになった。
反面、購入者にはこれまで以上に、医薬品に対する正しい知識と用法を理解することが求められる。その一環として、医薬品の販売においては薬学的な知識を薬剤師が積極的に情報開示し、特にリスクの高い第一類医薬品の販売時には、薬剤師が文書などで医薬品・用法・副作用などの説明を行うことが義務付けられる。狙いとしては、人々が自身で軽い疾病や健康状態を管理することで、医療機関を受診する費用を省くことである。このような考え方をWHOでは「セルフメディケーション」と称し、世界規模で提唱を続けている。
すなわち、従来の薬剤師に求められていた医薬品の研究開発に必要な知識・技術に加え、今後は「顧客への問診を通じて顧客の身体状況を理解し、医薬品の適用も含めた適切な対処方法を選定・提案し、わかりやすく顧客に伝える」ことが薬剤師に求められる。
本学では、2003年から「セルフメディケーションを実現できる薬剤師」の育成手法を研究してきた。NPO法人「セルフメディケーション推進協議会」への参画、東京都薬剤師会と連携した市民向け健康教室への本学教員と学生の参加、中学・高校での「薬教育」の試行段階からの学生参加などである。これらの取組を通じて、学生は今後の社会に求められる薬剤師の役割と、薬剤師にどのような能力が必要かを理解することができ、現在では本学科の演習科目に組み入れている。
本申請では、これまでの実績をもとに、本学に「セルフメディケーション学」を新設し、「セルフメディケーションを実現する薬剤師」の育成に必要な能力を体系的に育成する(図1)。さらに、ケース・スタディ教育手法・フィールド教育手法を取り入れ、これに必要となる教材整備、及び評価基準を体系化する。更に、薬剤師志望の高校生に対し、薬剤師の役割を明確にするために、薬剤師体験教室を開催し、薬剤師を擬似体験させることで、高校での教科学習、及び入学後の知識教育科目(1〜3年次)への取組意欲を醸成させる。これらの取組を通じ、医療費の増大や医療サービスの格差という諸問題を抱える日本社会の安全・安心基盤の構築に寄与していく。